職員の読書日記 職員の読書日記05

このページでは、職員の読書日記を紹介いたします。
発達協会の職員である私たちが、出会った本の感想などを紹介するページです。


第5回
「脳からわかる発達障害−子どもたちの「生きづらさ」を理解するために」
鳥居深雪 著/中央法規出版/1,890円(税込)

(社)発達協会 神谷指導室 林彩子(社会福祉士)

 先日、指導室に通われているお子さんのお父さんとお話をしていた時のことです。そのお子さんはピストルの音、子犬の吠えた声等へ過敏に反応することがあり、例えば耳を塞いだり、イライラした言動をとったりします。彼がそれらの音を「嫌い」というのはわかるのですが、なぜ嫌なのかはわからないため、過敏な反応に対し、なかなか上手く対処できずにいました。
 お父さんは、「親の僕がわからないのに、先生にわかれなんて言えないです。申し訳ないです。」とおっしゃいました。私は「こちらこそすみません」としか言えませんでした。ただ、お父さんがお子さんのことをわかりたいと願っていることを強く感じ、温かい気持ちになりました。

 私がご紹介する本は、そんな"発達障害のあるお子さんのことをわかりたい"という願いを叶えてくれた本のひとつです。彼らの脳がどのように働いて、独特の困難さが生まれているのか、特に知的な発達に大きな障害がない発達障害の方々に焦点を当ててまとめてあります。「視覚」「聴覚」「記憶」・・・。福祉を学んできた私にとって苦手意識のあるキーワードですが、本書ではそれらの働きの弱さや偏りが、彼らの抱える困難さとどう関係しているのかについて簡潔にまとめてあり、発達障害について学び始めた方にもお勧めです。知的な障害のあるお子さんにも通じる部分が多々あるように思います。
 そして本書の最大の特徴は、彼らの"生きづらさ"を疑似体験できることです。例えば集中力が弱いと言われるADHDの方の疑似体験。ランダムに並んだ沢山の写真の中から指定の写真を探す、という課題が紹介されています。頭の中では、ADHDの方が何かに注意を向けることに困難さを抱えていることを知っているつもりでしたが、この疑似体験で得た感覚は今までにあまり経験がなく、想像以上に大変でした。子どもたちの表情、行動、発言からわかろうとしていた私にとって、子どものもつ独特の感覚を想定し、体感して理解する、という発想自体、目からウロコでした。この疑似体験から、部分的なところに注目すると、全体像を捉えにくくなるということが実感できました。

 指導室では、ヒントを3つ出し友人に当ててもらう課題をよく行っています。「ジャガイモ」のヒントを考えていたA君は、「球根、土に生える、芽がでる」というヒントを出しました。友人からは「これだけじゃわからない」と返答がきました。A君の中には、地中のイメージが強くあるようでした。「野菜、茶色、丸い」等なぜ主要でわかりやすいヒントが出せないのかと私は思い、望ましい答えを教えました。今思うと一方的に私の考えを押し付けるような対応で、A君に意欲を持ってもらえる指導ではなかったと反省しました。 
 じゃがいもの絵を描くことを勧めて、見た目の特徴に気がつくよう促したり、「幼稚園に通っている子が当てられるヒントを出してごらん」と伝えて、知っている情報を洗い出すよう促したりするといった関わりをしていたら、A君から出てくるヒントは変わったかもしれません。 
 支援方法を振り返ることで、私にはA君の視点を変えるきっかけを作ることが求められていたのだと、気付きました。視点を変えられる力とは、"注意を向ける幅を狭くしたり広げたり調整する力"と言えると思います。全体像を捉えるためには、注意の幅を広げることが不可欠です。全体像を捉えられず、偏った情報が頭を占めているA君のつらさは、注意を向け視点を変える困難さを抱えている故にあるということを改めて痛感し、今後の指導に役立てたいと思いました。

 本書では指導のコツとして『子どもたちの自尊心を失わせないこと』が繰り返し挙げられています。このコツはどのお子さんにも当てはまるように思います。できたという結果だけを重視するのではなく、子どもの意欲を引き出そうと大人が配慮する中で、自尊心は守られて行くことを改めて再確認しました。
 他にも「キレる子供」「依存症」「虐待」といった社会問題をテーマにしたコラムなどが紹介されています。是非1ページ開いて子どもたちの世界を体感してみて下さい。発達障害をもつお子さんの独特の見え方、感じ方、聞こえ方が少しわかるかと思います。それらに気がつくことで、彼らを見守る私達の対応も変わるかもしれません。




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