職員の読書日記 職員の読書日記

このページでは、職員の読書日記を紹介いたします。
発達協会の職員である私たちが、出会った本の感想などを紹介するページです。


第8回
「発達障害の子の感覚遊び・運動遊び」
木村順 監修/講談社/1,365円(税別)

公益社団法人 発達協会 小林且弥(作業療法士)

「ボールの投げ方ってどういうふうに教えればいいんですか? 私は気付いたときには投げられるようになっていたのでどういうふうに教えたらいいか分かりません。見本を見せて教えたのですが、上手に投げられませんでした。」療育の現場ではこのような質問をよく受けます。ボールやなわとびなどの運動だけでなく、歯の磨き方や着替え方、排泄の仕方など様々です。この時、私は主に2つのことを考えています。「何につまずいているんだろう(つまずきの原因)」「どういう風にしたらできるようになるんだろ(獲得のプロセス)」。子どもたちのつまづきの原因は様々で獲得のプロセスも幾通りもあります。この「つまずきの原因」と「獲得のプロセス」を専門家と保護者で話し合い、色々な方法を試しながら前に進んでいくことになります。
今回紹介させていただく「発達障害の子の感覚遊び・運動遊び」は、子どもたちの日常生活で起こりやすいトラブルやその理由、対処法を感覚統合という視点で解釈し、イラストを交えてわかりやすく紹介しています。この感覚統合の視点を日々の遊びや関わりの中に取り入れることで、子どもたちのつまずきや保護者の困り感を緩和したり、親子の成長発達につなげるものです。本書では感覚統合をベースに考えられた遊びが、家庭で実施しやすいものを中心に紹介されています。
そもそも感覚統合は何かという話になりますが、本書ではこの感覚統合を交通整理に例えて説明されています。感覚には一般的に知られる視覚、聴覚などの他に触覚、固有覚、前庭覚などがあります。それらは物を識別したり、筋肉や骨の動きを感知したり、バランスを感知したりする感覚です。これらの感覚情報が信号や交通整理のない交差点のようにゴチャゴチャな状態になっているのが子どもたちのつまずきの要因とされます。この混乱状態を整理して調整するのが感覚統合というわけです。
本書を読み進めていく中で、感覚統合が特に長けている点は子どもたちのつまずきの原因をつかみやすいところにあると思いました。冒頭に紹介した保護者の質問のように、子どもたちの抱えるつまずきのポイントはわかりにくいものがほとんどです。それは知的な能力や認知の問題であったり、動きの問題であったりします。そして、最もわかりにくいのが感覚の問題です。私たちは自分ひとりの身体しか経験していないので自分の感覚しか知りません。しかも他人も自分と同じ感覚なんだという錯覚を起します。しかし会話などのコミュニケーションを通して互いの感覚を伝え、他人の感覚を知り、他者と自分との感覚の差を実感します。そしてそれらの感覚の差を整えながら環境に適応していきます。発達障害をもつ子どもたちはこの「感覚」を調整することが苦手な子が多いのです。本書はそんな複雑でわかりにくい感覚の問題を専門知識がない方でもわかりやすく解説されています。もちろん私たち専門家が読んでも新しい発見や考えさせられるところが数多くあります。
最後に私が印象に残った一文を紹介します。本書には『「がんばる」「くり返す」「慣れる」「我慢する」の4つは子どもの成長の見通しが立っている状態でないと逆効果になる。』とあります。
確かに私は療育の中で、子どもたちにこの「4つのこと」を求めることもありますが、子どもたちの成長の見通しを持って取り組ませるように気を付けています。そうでないと、ただ繰り返しても誤学習につながってしまうことがあるからです。子どもたちの成長には多くの成功体験と自信が必要です。子どもたちが見通しを持つことができる「がんばり」や「くり返し」は必ず子ども達の自信につながります。そしてがんばったことを認めて、たくさん褒めてあげることが大事だと考えています。
私たち専門家に求められていることは各々の子に対する適切な評価とそれに基づいた解決方法を提案すること、そしてその提案が保護者にとって無理のない程度に日常で実践できるものにすることです。そんな日々の療育の在り方を再確認させられた一冊でした。

 




第1回 「子どもの集中力を育てる」齋藤孝 著

第2回 「自閉症の子どもと家族の幸せプロジェクト ―お父さんもがんばる!「そらまめ式」自閉症療育」藤居学 著

第3回 「皮膚感覚の不思議」 山口 創 著

第4回 「子どもの理解と援助のために 感覚統合Q&A」 佐藤 剛 監修/永井洋一・浜田昌義 編集

第5回 「脳からわかる発達障害−子どもたちの「生きづらさ」を理解するために」 鳥居深雪 著

第6回 「自閉症の社会学」 竹中 均 著

第7回 「ピーティ」 ベン・マイケルセン 著