■ひろあきくん(小学校1年生・男子)

●3歳になってもことばもあまりなく、人への関心もなく、関わり方も暗中模索の日々でした。保育園に入ると同時に、療育機関に通いはじめ、身の回りのことを自分ですることからスタートしました。
●必ずできると信じてつきあっていこうと覚悟を決めて取り組みをしてきた今、人への意識も少しずつ高まり友達と一緒に動くこともできるようになってきました。家族ともに歩んできたお母さんが書いた「子育て日記」です。                *文中の名前は仮名です。

■ケンタくん(小学校6年生・男子・自閉症)

 



■ひろあきくん(小学校1年生・男子)

 1995年12月7日、ひろあきは元気な産声でこの世に誕生しました。1歳3カ月ちがいの年子の姉がいましたので、とにかく無我夢中。息つく暇なく子育てに追われる日々でした。発育は順調。良く飲み、良く食べ、いたって健康。
 しかし、ちょうど1年前に姉の成長で経験してきた発語や模倣が無いなぁと気にかかってきたのは、1歳前後位です。それでもあやせばかわいい笑顔を見せてくれる我が子に、障害があるとは微塵も感じませんでした。
 1歳半健診で心理の先生の部屋に回された時も「保健所の人は心配性なんだから」程度にしか思えず帰宅。ですが日増しに不安は募り、ある小児神経科で診てもらったところ『広汎性発達障害』との診断を受けました。「ひろあきが障害?! まさかそんなはずない。きっと直る。で、今は何をしてやればいいの?」と、危機感を抱きながらも障害という言葉を受けとめることができず、一歩が踏み出せない。そんな私の様子をみて主人が言ってくれました。「気持ちは楽観的にいこうよ。でも行動は慎重に。今は動けるだけ動いてみて、取り越し苦労だったら笑い話になるだけのこと。それよりあの時こうしてればよかったと後になって悔やむ方が嫌だろう」。嘆いているより行動をおこそう。やっと重い腰があがりました。
 区の心障センターや他の相談機関にも出向きましたが、ただ、通わせていることに意義があるはずと思いながらの通所。無理強いしたり、怒ってはいけないと言われ、好きなことだけさせて見守っていればいつか伸びるのかしら? 親の役目って何? と暗中模索状態でした。
 その間、ひろあきは3歳になっても会話として使える言葉は出ませんでした。こちらが言っていることも理解できていないようですし、視線も合いづらく、姉と一緒に遊ぼうとする姿もありません。表情の乏しさ、要求の少なさ、人への関心のなさ。障害を恨みました。
 そんな子育ても、3歳の4月に大きな転機を迎えます。保育園入園と現在通っている療育機関での指導がスタートしたのです。

療育・保育園・家での取り組み

 療育機関では、この子を育てていくための構えを学びました。それまでの私は、誰か良い専門家にひろあきを託せば伸びるのだと思っていましたが、基本は家庭。誰よりも一番身近にいる親が、真剣に本人と向かい合わなければダメだと気付かされ、先生の指導を仰ぎながら、まずは生活の中から、できるようになってほしいことに手を着けました。身の回りのことは自分でできるようにしよう。家族の一員としての役割を担いお手伝いをさせよう。
 言葉かけだけでは理解できないことも多く、手を添え、いちいちチェックしながらですから、実に面倒な作業です。がんばった時大げさに誉めてもあまり嬉しそうじゃないので空しい。時には感情的に怒ってしまい情けなくなりますが、以前のような迷いはありませんでした。なぜならこんなに時間をかけてつき合えるのは私以外誰もいない。やるしかないのですから。
 毎日親子で体操にも取り組みました。片言の単語が出始めてきた頃でしたので、そのうちいくつかの体操名を覚えました。
 しかし「次は何の体操する?」「腹筋」。終って「次は?」「腹筋」。…と同じ体操名ばかり意味もなくパターンのごとく繰り返して言うのです。言った責任をとらせ、その度に腹筋させたところすごい回数やるハメに…。本人は辛くて大泣き、こちらも汗だく、この状態をどうやって完結させるか迷いましたが、後には退けない意地がありました。優に百回は越えていたでしょうか。「次は?」と聞くと、泣きじゃくりながら「おしまい」と自ら言ったのです。当時アニメのエンディングを見ながら「おしまい」と言うくせに、「○○はおしまいだよ」と指示しても『おしまい』の意味がわからなかった彼です。体験から学んだ、意味を伴う言葉の表出。「がんばった! よく言えたね。エライ」――ギューと抱きしめ、胸が熱くなりました。
 この一件でひろあきもやればできると手応えを感じ、生活の様々な場面で泣きや抵抗に屈せず、必ずできると信じてとことんつき合っていこう、と思うようになりました。現在に至る親子の格闘が幕を開けたのでした。
 集団行動が苦手なひろあきですが、素晴しい保育園にめぐり逢えました。先生方の前向きな姿勢に、私も家でやれることは精一杯やり、少しでも園生活で活かせるようにしようと奮起させられました。「ひろちゃん、ひろちゃん」と声をかけてくれるお友達にも恵まれ、マイペースな彼も少しずつ人を意識し、集団の一員として動けるようになってきたのです。
 年長の秋の運動会で縄跳びをすることになり、ぜひ友達と同じ土俵に立たせてやりたいとの思いから、家で毎日練習を重ね、本番直前やっと一人縄跳びができるようになったひろあき。練習が嫌いで縄を見ただけでベソをかいてた彼が、その頃には楽しそうに自ら跳ぶようになっていました。
 先生方は大変喜んでくれ、『クラスだより』にこんなふうに書いてくれました。「ひろちゃんは初め全然跳べませんでした。ところが先日、全員練習でなんと22回もリズミカルにピョンピョン跳んだのです。真夏の暑い間もひろちゃんはお家に帰ってから毎日練習したそうです。"努力が実を結ぶ"とはまさにこれだ! と私達はとても感動しました。子ども達の中からも拍手が沸きあがりました。これが子ども達の大きな刺激となったのです」。
 そして卒園間近の2月、保育参観で皆と一緒にダンスを披露。「今回は家で練習しなくていいから。お母さん楽しみにしてて」と先生に言われ、本番当日を迎えました。先生の補助は全くなく、友達の動きに合わせ立派に踊る姿に感激のあまり涙がポロリ。保育園生活3年間の集大成がそこにありました。

今・そしてこれから

 現在、知的障害学級に通う小学校1年生。就学前の秋、やっと信号理解・安全確認ができてきたので、入学=一人通学を目標に掲げました。ここでやらねば、いつまでも親と一緒の移動しかできなくなる。自立への一歩だ、と意気込んではいたものの、親にとってもかなりの覚悟がいりました。「神様仏様、どうぞ息子をお守り下さい」。祈る思いで気づかれぬよう後をつけます。
 赤信号で飛び出し、車にひかれそうになったこともありました。運転手から「死にたいのか!」と罵声を浴びせられ緊張しているひろあき。でもこんな経験をバネにして、道を歩く術を学んでいきました。練習の甲斐あって入学式の翌日から早速一人通学。「ただいま!」と玄関に入ってきた笑顔には、「一人で学校まで行ってこれたよ」という自信と達成感がにじんでいます。
 スイミングスクールにも通い始め、かれこれ1年半になります。泳ぐことが好きなので技術をつけてやりたいと入会したのですが、初めの頃は列に並べない等、態度の悪さにイライラ。様子を撮影したビデオで省みさせることを繰り返しながら少しずつ改善し、一般の子ども達にまじって指導を受けられるようになってきました。先日検定でバタ足が合格。7カ月間同じ級にいましたから喜びもひとしお。ごほうび何がいい? と聞くと「サーティワンアイス!」と嬉しそうに答えます。
 また、療育を通じて同じ悩みを励まし合える仲間ができ、家族ぐるみでおつき合い。昨年、ひょんなことから知り合った療育OBの青年Mさんといつもの仲間で高尾山へハイキングに行きました。子ども達の世話をしてくれたり、空になった皆の椀を茶店まで運んでくれたりと、Mさんのさり気ない気配りに私達はとても感動したのです。彼の障害は決して軽くはなかったとのこと。本人の努力・周りの方々の取り組みあってこそと思います。
 当たり前に自分のことができ、その上、人のために何かをしてあげられる。障害の程度にかかわらず、努力次第で他人を思いやる気持ちは育めるものなのだと目から鱗でした。「継続は力なり」。今の取り組みが将来へ続く一本線上にあることを忘れず、我が子の豊かな人生の糧となるようがんばろう、と皆で確認できた貴重な出逢いです。
 最近のひろあきは、失敗しても「もう1回やる」と諦めない姿勢もでてきて、たくましくなりました。彼の変な言葉遣いは、よく周囲を笑わせてくれますが、めげずに持ち合わせている言葉を駆使して一生懸命伝えようとします。以前はあんなに無関心だった姉を慕って一緒に遊ぶ姿は実に微笑ましい。人との関わりを求め、ずいぶん人間らしくなってきたものです。彼のがんばりや小さな成長に家族皆が喜びを覚え、もっともっとと欲もでます。
 これからは自己判断能力・自主性を育てることが大切と教えられました。あれもこれもと躍起になっていた私も、そろそろガミガミ母ちゃんを卒業し、おだやかな母を目指したいと思う今日この頃。お互いがんばりましょうね! ひろあき君。それと弟思いのめぐちゃん(姉)、家族イベントを企画してくれるたけしさん(主人)、いつも協力してくれてありがとう。家族皆で明るく・元気に・たくましく歩いていこうね。
 周囲の温かい支援があってこそここまでやってこれました。ひろあきを授ったおかげで得られた人とのつながりは、私の宝物。感謝の気持ちと共に、これからも見守っていただければと思います。


●ひろあきくんのプロフィール●

生年月日…平成7年12月7日
長   所…健康、体力、立ち直りが早い
短   所…一斉指示に弱い、独言、鼻歌
好きなこと…プールや海で泳ぐこと、山登り、スキー、(最近乗れるようになった)補助無し自転車、調理、絵本
嫌いなこと…爆発音
目   標…公共の交通機関を使いこなせるようになること

 

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