社会性の発達について
■大人のことばに耳を傾けさせるには・・・

 人を意識し始めたばかりの時期の子どもたちは、たいていおもちゃなどを出しては少し遊び、それはそのままで、またすぐ次を出す、ということを繰り返します。大人にしてみれば、散らかるし、何でも引っ張り出すので目を離すことができなくて大変です。「ひとつだけよ」とか「出したら、しまってから」などと声をかけても知らんぷり、という時期です。

 けれども、歩くことや身の回りのことなど、毎日繰り返すことによって、だんだんに人の言葉に耳を傾けるようになり、大人が「だめよ」と禁止した言葉の意味も理解していきます。遊んでいるときにも、さわってほしくないものは一貫して止めるようにします。大切なのは、声をかけるばかりではなく、やってほしくないことは止めていくことです。できるだけさわられる前に動きを止めて、「だめよ」と言われてさわらなかった、という経験を子どもにさせていきます。

 さて今回は、もう少し人の言葉に耳を傾け始めたKくんのお話です。

●Kくんにしつけはできないのか!?
 Kくんは、小さい頃からおしゃべりも遅れていたので心配になり、3歳のときに訪ねたある病院で自閉症と診断されていました。その後、保健センターでやっている親子教室に参加したり、リトミックなどにも通い、少しずつお母さんの言葉も理解していきました。おしゃべりも「じゅーちゅ」「イヤー」など片言ですが、出てきました。
 
  私たちのクリニックで、心理検査のために部屋に入ったKくんは、机といすを見るとまずは着席することができました。ただ、着席すると「コッコー」と少し高い声で訴えました。私は「え? なんのこと?」と思い、お母さんを見ると「今日はなし」ときっぱり言っています。それを聞いたkくんも、それ以上言うことはありませんでした。

 検査が始まり、教材が出てくると、少しはそれにさわってものを扱ったり、操作することができました。けれども、「待って、見ること」を求められているような内容や「大人の見本を見て、まねすること」になると、とたんに苦手さが出てきます。大人が見本を作っている間に、「まっててね」と制止されると、「キィーッ」と声をあげ泣きべそになります。止められて大騒ぎをしてしまうほどではありませんが、怒ってしまうので課題の意図が伝わらず、結局まねることはできませんでした。

 また、テスト中にすくっと立ちあがり、おもちゃを手でさしながら、「あーっ」と声をあげ、お母さんを見ました。そこでお母さんが「あとで」とひとこと言うと、あきらめたようでまた着席して、机上の課題に向かいました。  発達検査の結果では、粗大な運動の能力や、ものの形を見る力は高いものの、先に書いたようなまねることや、「大−小」や「長−短」概念などが理解できず、総合的に見て2歳くらいの発達でした。
 検査を終えて、お母さんと話をしたところ、「コッコー」と訴えたのは、いつも親子教室でおやつを食べるので、いすに座ったらチョコが出てくるものと思ったのだろう、ということでした。また、お母さんはいろいろな本を読み「自閉症はしつけができない」と書いてあったけれど、そうなんでしょうか、という質問をされました。

さて、Kくんは、ある程度は応じて検査の課題に取り組むことができました。また、いすに座るといつものお菓子が出てくるはず、と予測したり、おもちゃで遊びたいよー、どう? と手でさしてお母さんに訴えてみたりして、いきなり行動に移すのではなく、行動する前に、一歩踏みとどまることができるようになってきています。いきなりおもちゃを取ってしまったらいけないのだ、という「良い−悪い」がわかりつつある時期と考えられます。また、この時期には、相手によって態度が変わる時期でもあります。初めてつきあう私に対してCくんは、奇声を上げてみたり、怒って泣きべそになっていましたが、お母さんの制止にはだまって応じることができています。

 このお母さんの対応はとても上手で、Kくんの行動をコントロールすることができていました。「今日はなし」とか「あとで」という、短いひとことで、しかもきっぱりした言い方で伝えることで、Kくんは自分の要求や思いを通すばかりではない、という姿勢を身につけることができつつあります。ようやく、人の話に耳を傾けるための構えの部分ができたといえるのです。これは、しつけのための第一歩ともいえます。

 自分の思いばかりでは、人から何かを教わっていくことはできません。幼児のうちは、ことばや社会性の問題としつけの問題との間に明確に線を引くことはできないと考えていますが、どちらも人から教わるものである、という点に違いはありません。自閉症だからしつけができない、などということはなく、お母さんはもうしつけの第一歩を始められているんですよ、とお話をしました。「こんなやり方で良かったんですかー」とお母さんはとても安心されたようでした。

 最後に、Kくんの次の課題としては、もう少し待つことを徹底させたり、待っていられる時間を長くしていくことです。お母さんとのやりとりの中でもまだ、怒ったりすることもあるようなので、そうなったら「静かに」と感情を抑える練習をしながら、他の子ども達と同じ動きを一緒にしたり、ちょっと待たせて見本を見せてから、お母さんの動きをまねしたりすることを促していくといいですね。

■月刊 発達教育より 一松 麻実子(発達協会)言語聴覚士

 

 

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