社会性の発達について
■不安が強く、お母さんから離れられない

 今月号は、人によって態度の変わるというよりも、特定の人(たいていは母)以外の人に慣れにくい子どものお話です。子どもの印象でいうと、前月号でご紹介した子どもは、泣いたり騒いだりするけれど、パワーにあふれている感じがあります。少々泣いても、叱られても、ものともしない、たくましそうな印象です。ところが、今月号でご紹介する子は、むしろ、神経質で過敏、不安が強そうだなあ、といった印象を与えます。こちらが関わりを求めすぎていくと、恐怖感だけが育ってしまうのではないか、とさえ思えるような子です。

●不安げな表情で母から離れないOくん
 Oくんに初めて会ったのは2歳半の時でした。言葉がわかっているような表情をしているのですが、言葉がほんの少ししか出てこない、ということ、母から離れられない、などの心配から、クリニックにやって来ました。かなり小さい頃から、母以外の人にはほとんど慣れず、人見知りの強い子だったそうです。また、嫌なことには、ひどく泣くだけでなく、抱かれている人の肩や床に頭を打ちつけるので、怖くて、できるだけ泣かせないようにしてきた、とのこと。最近は、それはしなくなったそうです。
 クリニックの心理の部屋でも、母から離れられず、しがみついていました。こちらを見ることはないのですが、雰囲気を敏感に察しているようです。少しでもこちらが意図的に関わろうとしたり、あるいは、Oくんに見せるつもりでおもちゃで遊んだりしてみせても、私のことはもちろんおもちゃさえも、見ようとしません。母も、一緒になって誘いかけてはくれるのですが、まったくのってきません。ただ、その誘い方も、「おねがいだから、泣かないでね・・・」といった感じで、どきどきしながらつきあっている印象です。これでは私が何かをさせようとしても無理そうです。
 しばらくOくんは放っておき、家庭での様子を聞いていると、徐々にOくんも安心してきたのか、母の膝からおりて、こちらに背を向けたままカバンをごそごそとしています。中にチョコレートが入っているのを知っていたようで、取り出すともぐもぐと食べ始めました。さりげなく、「先生にもちょうだい」と背中に声をかけてみたところ、泣き出したりはせずに、「んーんーんー」と拒否の声をあげて、母を見ました。言われたことはわかっているのでした。
 少しこの場にも慣れてきたようなので、教材を出してみました。すると、途端に母にしがみつきました。母が身体の向きを換えたりして、教材や私の見本を見せるようにすると、母の膝の上で手を出し、少しだけやり始めました。ただ、絵カードを見せられて「〜はどれ?」と聞かれても、しらんぷり、身体部位のことばを聞かれてもしらんぷりでした。お母さんが横でしきりと、「ほら、おめめ、だって。さわってごらん、知ってるのに」とせかすのですが、答えません。積木を積むことは、8個もできましたが、何かの形をまねて作ることになると、積木に手を出そうともしませんでした。いくつかの課題も終えてしばらくたった頃に、原因もなく、怒るわけでもなく、泣き出してしまい、今日のところは終わりとしました。不安もあったけれど、いくつかの課題を行ない、緊張感が限界に達したという感じでした。
 さて、Oくんの検査の結果をみると、言語の面については、母とであれば、いくつかは絵を指さしたり、身体の場所もさわれたりするようです。おそらく、物の名称なども理解しつつあるのだろうと思われました。認知面では、形のマッチングという直接的な課題はできるのですが、同じ形を指さすという、間接的な手段を用いて答えることに難しさがありました。絵を指さして答える、とか「まねて作る」という、応答を要求されるような課題になるとできない、という傾向が顕著に見られています。社会性の発達段階としては、人はしっかりと意識し出したところですが、「良い−悪い」の理解はこれからだと思われます。

●指導のポイント
(1)身振りや簡単な言葉による要求を促す
 お母さんに対しては、しっかりと安心感を持っています。まずは、こういう人との中から、「泣く」という手段ではなく、間接的な指さしや身ぶり、言葉を使って伝えるように促します。欲しいものがある時などに、「ちょうだいしてからね」と身ぶりの見本を見せたり、Oくんの手をとって、重ね合わせたりするしぐさを教えます。

(2)子どもの集団に入れる
 子ども集団に「入る」といっても、この時期のOくんには、いきなり「入る」のは無理なことです。まずは、母に抱かれてでも、母の膝の上からでも、子どもたちの中に「いる」というところから始めます。自分に関わられそう、という意図を敏感に感じ取ると、不安とともに拒否する気持ちが強くなってしまうOくんなのですが、自然に子どもたちを目にしたり、言葉が耳に入ったりするだけでも、大きな刺激になります。興味を引きそうなおもちゃなどが出来てきたら、母の膝にいてでもよいので、それで遊ぶなどして楽しい思いも味あわせるようにしていきます。

■月刊 発達教育より 一松 麻実子(発達協会)言語聴覚士

 

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