社会性の発達について

■声かけをしても人を意識しない

2歳台までは、やりとりの基礎の構造である三項関係を学ぶ時期です。この時期をきちんとのりこえていけるかどうかは、その後の人と関わる力を育てていく上で、とても大事になります。ですから、再び何回かはこの時期をとりあげます。

●人を見ないJくん
 Jくんは自閉症と診断された3歳になったばかりの男の子です。
 Jくんが、私たちのクリニックの心理室にやってきました。部屋にあるおもちゃに見向きもせず、浮かない表情で立ち尽くしています。お母さんに体調を尋ねると、朝は元気だったし、別に具合が悪いわけではない、とのお返事でした。
 机の上につみきをだして誘ってみますが知らんぷりでした。そこでこちらは方針転換。「座ろうね」と声をかけた後、椅子のところまでつれてきて座らせてしまいました。するとJくんは、泣きべそをかき始めました。いすから立ち上がりそうにもなりますが、「座って」と伝えて立たせないようにしながら、課題を用意します。
 課題の一つはつみき積み。一辺が5センチくらいのつみきを用意し、積んでみせます。けれども手さえ出そうとしません。そこで、Jくんの手をとり、一緒につみきの上にのせることをくり返します。「つんで」と声をかけ、一緒に積んでは「できたねー」とほめるのくりかえしです。4、5回くりかえすと、つみきを持たせてしまえば一人で積むことができるようになりました。
 また、この課題の最中に涙や鼻をふいたティッシュがたまりました。今度は、それを持たせ、1メートルくらいのところにあるごみ箱をたたいて注目させた後、「捨てて」と声をかけて一緒に捨てます。これは、3回目にはティッシュを持たせて「捨てて」と言えば、ごみ箱をたたいて知らせなくても、捨てられるようになりました。
 この様子を見ていたお母さんは、
「これまでもJが私の目を見てきたときには、言われたことがわかったかな、と思うときがあったんです。でもそんなことは、一年に1・2回くらいで、目を見てくれないからこちらのいうことがわかんないんだと思ってたけど、そうじゃないんですね。」
とおっしゃいました。
 
 私たちのクリニックの心理室は6畳ほどの和室です。部屋のすみにはおもちゃがおいてあります。子どもが部屋に入ってきたとき、私たちは子どもの行動からさまざまなことを読み取ります。お母さんにしがみついて離れない子、お母さんにしがみつきながら、私の様子を伺っている子、ぱっとおもちゃを見つけてさっさと遊び始める子などなど。
 Jくんはお母さんにしがみつくこともおもちゃで遊び出すこともなく、ぼんやりとした感じでつったっていました。この様子から、初めての場所などに緊張したり、不安が強い、という状態ではないこと、おもちゃで遊び出すだけの手指が育っていないのかもしれない、と考えました。
 社会性という点からみると、ヒトも発見していない、モノをみつけていない、という時期です。自閉症の子どもたちは視覚的な操作は比較的得意ですから、Jくんもパズルは、試行錯誤しながらですが、一応できます。ただ、パズルの課題では、入ったかどうかは自分自身の手応えでわかるので、ヒトの存在とは無関係にすすんでいくことができます。一方で、つみき積みやごみ捨ての課題は、ヒトの発する言葉に耳を傾ける必要が出てきます。JくんもJくん自身の手につみきやティッシュを持たせて、声かけを何回かくりかえすと、言われたものができるようになりました。モノの名前についてはまだまだわかっていない段階ですが、動きを伴う言葉であれば、同じことのくりかえしの中でわかっていきそうです。

●指導のポイント
(1) 動きのある簡単な言葉を教えていく。「入れて」「捨てて」「座って」など
 自閉症の子どもたちは視線があわないことが多いものですが、それにあまり気をとられることなく、こちらが伝えた言葉通りに動かします。Jくんのお母さんが言ったように、子どもの方から大人の目を見てくることはあまりないものです。目を見てこなくても、何かモノを手がかりとしながら言われたことがわかり、動けるようになっていきます。

(2) 赤ちゃん語ではなく、いつも同じ言い方で。
 たとえば、ごみ捨ての時に、「捨ててきて、ほらポイだよ、ポイしてね」といろいろな言い方に変えて伝えやすいのですが、このためにかえって混乱してしまうことがあります。赤ちゃん語よりも大人がふつうに使う短い言葉をくりかえしたほうが分かりやすいです。

 

■月刊 発達教育より 一松 麻実子(発達協会)言語聴覚士

 

 

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