社会性の発達について

■人への意識を高める

 社会性というのは、人と関わる中で育てられていくものであり、子どもの「人に対する意識」がどれくらい高まっているか、というのは大事なポイントです。自閉症とか自閉的傾向といわれる子どもたちは、「人に対して無関心」「わかっていると思われる言葉かけにも反応したりしなかったりする」など、まず人を意識するというところが薄く、交流を体験したり、人の言葉を理解することに弱さが現れています。周囲の大人は、人に無関心にみえるそのような子どもたちに対して、いったいどう関わっていけばいいのかと、まず戸惑ってしまいます。積極的に何か意図を持って関わろうとすると、時にひどく拒絶したように嫌がることもあります。そうすると、ますます、子どもの日常的な世話以外には、ただ子どもが遊んでいるのを危なくないように見ているだけ、となりやすいものです。
今回は、そういった子どもが、人への意識を高めていった働きかけをご紹介します。

●課題を見せると、椅子を運んでくるようになったEくん
Eくんは、自閉症の疑いがある、と診断された2歳になる男の子。言葉はまだ出ていませんが、身体つきはしっかりとしていて、階段もどんどん一人でのぼることができ、両足とびも一人でとびはねることができます。

 クリニックの心理室で、初めて会った日のこと、さっとおもちゃを見つけて遊び始めました。「クーゲルバーン」という玉が転がって音が鳴るおもちゃを気に入りました。何度も玉を落としては転がして、また玉を落としては転がして、とあきることなくくりかえしています。クーゲルバーンで遊ぶのをしばらく放っておいた後、いよいよ検査開始。「おもちゃはおしまい」と声をかけ、クーゲルバーンを片づけて検査の教具を出しました。ところが、クーゲルバーンを探そうと動くので、抱きかかえました。身体をのけぞらせて、「イーッ」と言いながら抵抗しますが、それにかまわず、手をとり、一緒につみきを積んでみせました。むずむずと身体を動かしますが、だんだん抵抗が減り、何回か一緒に積むうちに一人でもつみきを積むようになりました。

 3回目の心理指導の日。お母さんが家でも簡単なお手伝いに取り組んで、脱いだ洋服を洗濯かごへ、おむつはバケツに入れることができるようになった、と報告してくれました。入れる場所をまちがいそうになって「ちがうよ」というと、修正もできるとのこと。
 そこで、今日は、一つの課題を椅子に座って机でさせることにしました。課題中は、座ってやることで、自由にできる遊びと「課題の時間」とを区別させたいと考えました。子どもたちの喜ぶトーキングカードを出しました。カードを1枚だけ机の上にのせて、私が「ちょうだい」と手を出して言いました。すると、私の手の上にカードをしっかりのせてくるようになりました。目が合うことはありませんが、カードを聞かせると、にこにこしてとても喜んでいます。
 さらにこの日、課題時間を終えてお母さんと話をしていると、Eくんが自分でトーキングカードを探し出してきました。「よほど気に入ったんだな」と思いながら、見守っていると、それを机に運び、さらにちょっとずれたところにあった椅子を自分で持ってきて机の前に座って待っているのです。トーキングカードは机で椅子に座ってやるものだ、と理解したんだと、お母さんと2人、Eくんに感心したのでした。

 さて、Eくんの発達段階を考えてみます。初めて会った頃のEくんは、自分で気に入った遊びの中から学ぶことはできても、人と関わりあって学びを広げていくことができずにいました。社会性という点では、「人を発見していなかった時期」です。また、周囲の大人も、何かを教えようと、積極的に関わろうとすると、抵抗に会ってしまうので、Eくんの好きなもの以外のことで関わりあうことをあきらめていた、という状態でした。「人を意識する」という働きかけができずにいたといえます。
 ところが、つみきを一緒に積んでみたり、簡単な体操を家でもやっていくうちに、ちょっといやがっていても、くりかえしていくと、できないと思っていたことが、できるようになっていくと、お母さんが気づいたのです。簡単なご用事にとりくんだのもタイミングの良い働きかけでした。場面を決めて同じ働きかけをくりかえすことで、わかっていったのです。生活の中で育てた力がトーキングカードの課題で椅子を運ぶ行動につながったといえます。このように、決まった場面でくりかえされれば、簡単な言葉がわかり始め、人から学べるようになってきたEくん。社会性の発達としては人への意識の「芽吹きの時代」にはいってきたところです。

●指導のポイント−パターン化できる力を利用する
 自閉的傾向のある子どもたちは、同じものであきることなくくりかえし遊んだり、日常生活ではパターン化した行動を覚えやすいという力を持っています。特にお着替えや食事に関する身の回りの生活の中で、大人がやってしまっていた部分を見直して、子どもにできそうな部分を見つけ出し、簡単なご用事をさせていきます。

 

■月刊 発達教育より 一松 麻実子(発達協会)言語聴覚士

 

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