社会性の発達について

■「すぐにイヤだ!」と拒否的な子どもに対して・・・

 さて、今月号では、障害の程度やタイプが、以前紹介したOくんとはまったく違う状態を示していSくんのお話です。

●強制的に何かされるのを嫌がるSくん
 5歳になり、私たちのクリニックにやってきたSくん。幼稚園で子ども同士で遊べず、一人でポツンとしていることが、お母さんの一番の心配でした。2歳の頃から、言葉が遅いとは感じていましたが、なんでも自分でやってしまうおとなしい子で、専門機関でも「様子を見ましょう」といわれてきたとのこと。検査のために、心理の部屋へお母さんと二人で入りました。「お机で勉強しようね」と話をしたせいもあってか、「お椅子に座ってカード見てみようよ」と促しても、「いやだ、さよならしたい」。「お絵かきしてみようか?」「いやだ。さよならするよー」。
 こんなやりとりが何回か繰り返されましたが、何を言っても、やらない、家に帰りたい、というSくんの主張はまげられませんでした。しばらくそれらのやりとりを聞いていたお母さんは、Sくんには何も言わず、私に向かって、「何か強制的にさせられると感じると、絶対にやらないんです」「公文のドリルみたいなものならすわってできるんですけど」と話されました。表情はとても硬いままでした。
 お母さんのそんな様子から、「今日は検査はやめて、お母さんとお話しましょう」ということになりました。
 お友達と遊べないことを、どうしたらいいのか、というお母さんの心配は、検査ができなかった、というショックと検査ができなくていいんだろうか、という疑問にかわっていったようでした。

 さて、このSくんの状態をどのように考えたらいいでしょうか。お母さんとしては「検査ができなかったこと」がショックだったようですが、検査で子どものすべてのことがわかるわけではありません。検査は子どもを知るための一つの手立てではありますが、絶対にやらなければならない、というものではないのです。ただ、「検査」という場面を使って、人と関わる力を、子どもたちがどれくらい身につけているか、大人からの働きかけを受け入れる態勢がどれくらいできているのか、を知ることができます。
 Sくんの場合、人からの働きかけを受け入れられず、自分でやりたい、と思ったことだけ、あるいは自分ができると感じたときだけしかやらない、という状態です。こういうところは、以前紹介したOくんと似ています。けれども、Oくんとはちがって、泣き出すことはなく、言葉を使って拒否します。さらに、いやだいやだ、というだけではなく、「いやだ」そして「××がしたい」という主張も、言葉でできるのです。検査ができなかったので、はっきりとしたことはわかりませんが、どうも理解力、そして表現力ともに大きな遅れはなさそうです。
 また、お母さんの接し方は、Oくんのお母さんと似ていて、拒否するSくんの様子にドキドキとして、ついついSくんの弁解をしてしまいます。無意識的にせよ、Sくんをかばってしまい、その結果として、Sくんは自分のやりたいことを通す、という経験を積んできたのではないか、と思います。
 これでは、お友達と遊ぶのは難しいでしょう。子ども同士で遊ぶには、自分のやりたいことだけをやっていてはうまくいきません。自分の主張もあり、友達の主張も受け入れることなどが必要です。Sくんの場合、まずは大人の話を受け入れることなどが必要です。Sくんの場合、まずは大人の話を受け入れることから始めて、「良いことと悪いこと」をしっかり学ばせることが大事だと考えられます。

●指導のポイント
・母の話を聞く、聞いて応じる

 Sくんは、私の話を聞くことは聞いていました。「〜やろうよ」というと「いやだ、さよならしたい」と答えています。これらを見ると、やりとりは一見成立したようにみえますが、学ぶためのやりとりとはいえません。何かを伝えたら、それを聞いて応じさせていくことが大事になります。応じたあとに、大人が「良くできたね」とか「ちがってるよ」と評価を返し、子どもとともに喜んだり、再度子どもが修正したりすることで、やりとりが積み重なり、その中で人との関わり方を学んでいくのです。

■月刊 発達教育より 一松 麻実子(発達協会)言語聴覚士

 

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