社会性の発達について

■感情が揺さぶられるということ

 感情というのは、それが激しくやってきた場合には、嬉しいにしろ、悲しいにしろ、心の中を揺さぶられるとか、嵐のような風が吹く、というような表現がぴったりだな、と思わされることが多くあります。理解する力は年齢相応にあるけれど、行動のコントロールに弱さを持つ多動な子どもたちにとっては、ほんの些細な出来事でも、すぐに感情の嵐が起こってしまうようです。たいていは、叱られる、といったような自分にとって不愉快な場面でということが多いものですが、そういう子どもたちと付き合っていると、感情の嵐が吹き荒れている時に、何を言っても無駄です。感情の嵐は、それがおさまらないうちにいくら働きかけても、何を言ってもなかなか伝わりません。ただ、そういう状態に対しては、嵐が過ぎ去るのを待つというよりも、それを何らかの大人との働きかけによって、抑える方向で関わっていくことで、コントロールレベルとでも言える段階をあげていってやりたいと思っています。また、この嵐は、吹き出す寸前に止めてやると、すっと止められることもあります。今回は、感情が揺さぶられることについて、考えてみたいと思います。

ほめられても泣きそうになるKくん
 Kくんは、1年生になっても落着きがなく、お母さんの話を全然聞かないこと、言葉も遅れているということで、指導を希望されてお母さんとやってきました。クリニックで検査の部屋に入ると、机と椅子を見て座ることはできました。けれども、検査が始まると、何ということもなく、イヤになってきたらしく、突然「やだ−」と大きな声をあげました。さすがに、椅子から立ち上がったり、椅子や机をひっくり返したりはしないのですが、叫び声もあげるので、「うるさいよ」と言ってみましたが、黙ることができません。そこで、大声をあげた瞬間にすかさず、身振りとともに、「バツッ!!」とこちらも迫力を込めた声で伝えました。すると、機先を制されたとでも言うように、すーっと静かになりました。田中ビネー知能検査を始めると、3歳台の課題ができたりできなかったりでしたが、言葉でやりとりすることは苦手意識があるようで、ふざけたことを言います。たとえば、短い文を記憶して、同じことを言う、という課題で、1問目は正しくマネて言えました。2問目で、「お母さんが、せんたくをしています」と私が文章を言うと、「オシッコ−」と。もちろんトイレに行きたいわけではありません。

 数については、よくわかっていて、5くらいまでの概念を獲得していました。迷路や、見て同じ形を書くという課題もできました。

 だんだんちょっと難しい問題になっていくと、自分でもできないなと思うようで、涙ぐみかけます。その一方で「ブーッ、はずれ−」と間違いを指摘されるとゲラゲラ笑い出したりすることもありました。また、簡単な問題になって、「できたね」とほめられると、また涙が出そうになるようでした。そこで、またすかさず、「バツだよッ」と強めに言うと、泣き出すまでにはいたらず、こらえるようになりました。

 検査を終えて、お母さんと話す時間になると、お母さんがこの子はおかしいと言い出しました。間違っているのにゲラゲラ笑っていたり、ほめられているのに泣くなんておかしい、というのです。

 さて、Kくんの社会性の発達段階を考えながら、お母さんの疑問を考えてみたいと思います。Kくんは、自分の中では自分の能力を見つめる力があるのだと思います。ある課題が出てきたとき、それについて、結果に無関係にぱっとやってしまうのではなく、その課題が、自分にできそうかできそうにないものか、それをなんとなくではあっても、感じたりすることができるようです。ところが、そこに人が関わってくると、ちょっと反応がちがってしまいます。人から教わり、人からほめられたり、制止されたりした経験がまだまだ少ないと考えられます。だから、お母さんが言うように、人から関わられての反応は、とっても不自然に感じられてしまうでしょう。ちょっとイヤなことに、大声をあげたりする、というのもきちんと「バツッ」と伝えていく必要があります。でも、制止や禁止だけに限らず、ほめるほうも心がけなければなりません。Kくんは、人からほめられるのがイヤで泣きそうになるのではなく、ほめられると、気持ちが揺さぶられてしまい、それが涙という形になってしまうようです。関わる大人はほめると泣きそうになるので、ほめることをためらってしまいそうですが、そうではないのだと思います。ほめられたりすることに慣れていない、と言ってもいいでしょう。ほめた後泣きそうになるKくんに、「バツッ」というのは不自然なようですが、このKくんは、ほめられることに慣れていけば、次に嬉しいという気持ちにつながっていくと考えられます。

 感情が揺さぶられる初期の時期は、こんな感じなのではないかな、と考えさせられたKくんでした。

 

■月刊 発達教育より 一松 麻実子(発達協会)言語聴覚士

 

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