社会性とは

●社会性と人と関わる力について
 社会性をどのようにとらえるか、ということについて、心理学者の間でもその定義はないとさえ言われています。あるとき、大学生に社会性ってどういものだと思うか?と聞いたところ、「その場の空気が読めること」と答えてくれた人がいました。すばらしい答えだと思いました。

 では、その場の空気とは、どうやって読み取るのでしょう? 同じ場にいる人たちの全身からあふれるムード、それは、たとえば姿勢。身体がどういう格好をしているか、ということです。前向きか後ろ向きかというのは、人の性格や気持ちの持ちようを表す言葉でもありますが、身体がどちらを向いているかは、その場の空気に影響します。こちらが話しかけても、後ろ向きの人がいたら、それ以上はしゃべりかけようとは思わないでしょうし、前を向いてこちらの顔をよくみてくれる人がいたら、もっと話しをしたい、とか何か言いたいことがあるのかな、と思ったりするでしょう。

 また、相手の顔つき、表情もその場の空気を変化させます。声の調子ももちろんです。ニコニコされればついつい、こちらも笑ってしまったりします。不機嫌そうな目つきや声を出されたら、さっさと話しを切り上げようと思ってしまいます。

 そういうサインは、どれも人から発せられるものです。人に注目し、人の様子を良く見て感じ、そのサインを読み取って、判断していくのです。人は同じような場面だったとしても、いろいろな反応をします。以前に経験したことと似たような場面でも、まったくちがった反応に驚かされることもあります。それを、相手の様子から良く見て判断していくことの積み重ねによって、社会性が育つのでしょう。 人と関わらなければ、相手のサインを読み取る必要さえなくなってしまいます。

●社会性と言葉の発達
 社会性と言葉の発達には密接な関連があります。言葉といっても、おしゃべりのほうの「ことば」ではなく、むしろ、理解するというほうの言葉の力です。さらに、厳密な意味で言葉を理解する、ということよりも、もう少し広げて相手からのメッセージを受け止める力、といったほうがいいかもしれません。これは、言葉を理解するだけではなく、前にも書いたように、相手のかもし出す雰囲気から、何を伝えているのかを読み取る力ともいえるでしょう。ここが苦手だったり、遅れていると、当然社会性の発達にも影響が出てくることになります。

 また、逆に言葉の発達に遅れのない子どもたちは、社会性にも問題がないのか、という疑問も出てきますが、言葉の発達に問題がなさそうに見える子どもでも、社会性の問題を抱える子どもはたくさんいます。相手からの漠然としたメッセージを読み取りにくい、という一人の子をご紹介しましょう。

●漠然としたメッセージを読み取りにくい男の子
  Aくんは、4年生になる男の子です。知的な能力には問題はないともいえますが、アンバランスが大きく、小さい頃からことばの発達のほうがゆっくりな傾向がありました。また、身体の動き全体も手先の動きについても、とても不器用でもあります。
 
  ある時、着替えの後にすそが入っていなかったので、「すそをきれいに入れて」と言った所、えりを触って直そうとしたので、「すそはこっちだよ、下のほう」と指さしました。私は縫い目あたりをさしたつもりでしたが、それをぱっと見て「縫い目のこと?」と確認を求めてきました。私は「ううん、ちがうよ、縫い目じゃなくて、このあ・た・り」と漠然とさして見せました。私がちょうど着ていたトレーナーを見せ、「このあたりが、すそ、ほら、縫い目はないでしょう?」と話したり、近くにいたほかの子の洋服で、「じゃこの子の洋服のすそはどーこだ?」と聞いて確認したり、何枚かをやってみて、ようやく漠然としたすその位置を理解したようでした。

 このように、「すそ」という言葉を明確な場所で言おうとしてしまうと、Aくんのいうとおり、まさに「縫い目」ということになりかねません。が、すそというのは、漠然と「このあたり」としか教えようがありません。

 具体的なもので確認する中で、何種類かの中から共通点を自分で見つけ出すということが、「ふぅーん、そっかー」という、本当に「わかること」につながるのです。「すそはここなのよ」と教えすぎると、その一枚の洋服についての場所だけを覚えてしまいやすいのです。漠然としたことがらを理解させていくには、大人が具体例をいくつかあげて、その共通点を自分で見つけ出し、答えを出していくことが大切だと教えてくれたAくんとのやりとりでした。 

■月刊 発達教育より 一松麻実子(発達協会):言語聴覚士