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医療コラム5.子どもの睡眠障害とその対応―特に発達障害(神経発達症)と関連して 石﨑 朝世(医師)

2024.09.14

はじめに

睡眠は、心身の疲労回復のみならず、昼間に十分能力を発揮するためにも、さらには、生命維持や成長のためにも、大切な役割を果たしています。極端な睡眠不足や睡眠リズムのくずれが続くと、注意力や思考力が低下し、体調不良や精神的な不調に陥りします。子どもでは、精神的な成熟や学習の妨げになったり、成長障害の一因になったりします。そのため、特に子どもでは、適切な睡眠を確保することが大変重要です。発達障害(神経発達症)の特性がある方は、様々な要因から睡眠障害を持っている方が多く、特に配慮が必要です。生活習慣や環境の見直しが、まずは大切ですが、時には薬物治療も必要になります。

Ⅰ.子どもの睡眠障害にはどのようなものがあるのか

ICSD-3*1)で、以下に分類されますが、うち小児期にあり得る主なものをあげます。

1. 不眠障害:これは慢性不眠障害(3カ月以上持続)と短期不眠障害に分類され、さらに状況により、入眠困難、睡眠維持困難、早朝覚醒、熟眠障害があり、それらが混合していることも少なくありません。

2. 睡眠関連呼吸障害群:扁桃肥大やアデノイドによる閉塞性睡眠時無呼吸障害群、乳児や未熟児、薬物などの物質による、あるいは原因不明の中枢性睡眠時無呼吸障害群、肥満や身体障害、薬剤関連などの睡眠関連低換気障害群などがあります。

3. 中枢性過眠症群:ナルコレプシー、特発性過眠症、Kleine-Levin症候群、睡眠不足症候群などがあります。

4. 概日リズム睡眠-覚醒障害群:睡眠相前進型、睡眠相後退型、不規則睡眠覚醒型、非24時間型などがあります。

5. 睡眠時随伴症群:NREM睡眠随伴症(錯乱性覚醒、睡眠時遊行症、睡眠時驚愕症、睡眠関連摂食異常症)、REM睡眠随伴症(レム睡眠行動障害、反復性弧発性睡眠麻痺、悪夢障害)があります。

6. 睡眠関連運動障害群:レストレスレッグズ症候群、周期性四肢運動障害、睡眠関連こむらがえり、睡眠関連歯ぎしり、睡眠関連律動性運動障害などがあります。

7. その他の睡眠障害

以上の睡眠障害の中で、神山は、子どもに関連が深い項目として、不眠障害では、不適切な睡眠衛生、小児期の行動性不眠症をあげ、睡眠環境の改善と入眠儀式を促しました。中枢性過眠症群では、ナルコレプシー、Kleine-Levin症候群、夜間の睡眠不足による睡眠不足症候群をあげ、概日リズム睡眠-覚醒障害では、その要因の把握が必要としました*2)。

実際、一般的には子どもが睡眠障害になることは少なく、治療を要する睡眠の問題がある場合、基盤に何らかの要因があることが多いです。対応や治療を考える場合、睡眠障害の基盤となる要因および病態を考えることが、実際には重要であり、有用です。すなわち、子どもの睡眠障害については、睡眠障害分類と程度を判定し、その基盤となる要因、病態を十分検討した上で、睡眠環境を整え、ときには薬物治療を含む治療的な対応をします。

睡眠障害の基盤となる要因として、しばしば考えられるのは、自閉スペクトラム症、注意欠如多動症といった発達障害(神経発達症)、不登校と関連する小児慢性疲労症候群*3)、不安、緊張が長く続いている状態、まれには、うつ病、双極性障害、統合失調症といった精神疾患も考えられます。てんかんも鑑別としては重要です。閉塞性呼吸障害を来たす慢性鼻炎や扁桃肥大やアデノイドも少なくありません。高度肥満による睡眠時低換気あるいは無呼吸も要注意です。重度なアトピー性皮膚炎、喘息などのアレルギー疾患も睡眠の妨げになり得ます。他の要因と重なってはいることが多いですが、ネット依存も大きな要因となってきています*4)

Ⅱ. 睡眠環境を整える

Ⅰに書きましたように、個々の睡眠障害の要因によって、それに応じた様々な対応が必要ですが、ここでは、基本的なことのみ、簡単に伝えます。

厚生労働省のホームページには「若年世代は夜更かし避けて、体内時計のリズムを保つ。 子どもには規則正しい生活を!休日に遅くまで寝床で過ごすと夜型化を促進する。 朝目が覚めたら日光を取り入れる。 夜更かしは睡眠を悪くする。」と記載があります。1 日の覚醒と睡眠のタイミングを司っている体内時計は、起床直後の太陽の光を手がかり にリセットし、1 日の時を刻んでいます。光による朝のリセットが毎朝起床直後に行われな いと、その夜に寝つくことのできる時刻が少しずつ遅れます。寝床に入ってから携帯電話、メールやゲー ムなどに熱中すると、目が覚めてしまい、さらに、就床後に、長時間、光の刺激が入ることで覚醒を助長することになるとともに、そもそも、夜更かしの原因になるので、注意が 必要です。
周囲の大人も子どもの夜更かしを助長させない努力が必要です。

また、「早寝・早起き・朝ごはん」という標語がありますが、「早起き」から始めるのが良いといわれています。まず1週間、頑張って早起きをさせましょう。そして日光を浴びます。それが無理なら窓辺で顔を戸外に向けるのでも結構です。1~2週間ほども続けると多くの子どもたちの体内時計は徐々に朝型に変わり、早起きの辛さは減ってきます。早起きさせた分の睡眠時間は早寝になった分で取り返せます。早起きから始めることで、太陽と朝食を効果的に使って体内時計の時刻合わせを行います。ただし週末にお昼近くまで寝坊してしまうと体内時計が一気に遅れ、1週間分の苦労は水の泡になってしまいます(厚生労働省、健康情報サイトから引用)。

Ⅲ.各睡眠障害への薬物治療

様々な面での発達や成長、健康の妨げになる睡眠障害のすべてが、薬物治療の対象になり得ますが、環境調整が、まずはなされるべきであることは言うまでもありません。また、多くの薬は、小児での安全性が確立しておらず十分な注意が必要です。以下によく遭遇する睡眠障害への薬物治療について述べます。

1. 不眠障害

1) 情緒面や行動面の問題が目立たない場合

発達障害の特性が関与する睡眠障害であることが多いです。

その中でも、自閉症スペクトラム障害がある子どもではメラトニンが有効であることが多いです*5)*6)。メラトニン受容体アゴニストのラメルテオンもしばしば有効ですが、メラトニンそのものより、入眠障害への効き目は弱い印象です。また、午前中まで眠気が残ることがあり注意が必要です。ただし、中途覚醒が目立つタイプでは、ラメルテオンがより有用であることが多いです。現在、メラトニン(メラトベル細粒®)は6歳以上16歳未満、ラメルテオン(ロゼレム®)は成人で承認されています。

近年、覚醒レベルを保つことに関係のあるオレキシン受容体拮抗薬(スボレキサント(ベルソムラ®)レンボレキサント(デエビゴ®))が成人で承認され、依存や認知機能の低下を引き起こさないことから、積極的に使用されます。

また、扁桃肥大やアデノイド同様、慢性鼻炎も、状態が重ければ、次の閉塞性呼吸障害になるが、軽くても、熟眠障害を来たすことがあります。耳鼻科的な治療はもとよりですが、葛根湯加川芎辛夷や荊芥連翹湯処方が効果的です。

2) 情緒面や行動面の問題が目立つ場合

発達障害の特性が関与していることが多いですが、そうでないこともあります。

自閉スペクトラム症の易興奮性、易刺激性が関与している場合は、抗精神病薬が適応になります。リスペリドンおよびアリピプラゾールが小児(6歳以上18歳未満)の自閉スペクトラム症の易刺激性に適応となりました。

不安や緊張が目立つ場合、抗不安薬を就寝前に服薬することで、睡眠障害の改善が図られることがあります。抗不安薬の使用については、頓用あるいは短期間の使用にとどめることが多いです。

筆者は、しばしば、鎮静効果が期待できる、リラックスを図ること、あるいは、不安、緊張を軽減することが期待できる漢方薬(抑肝散、抑肝散加陳皮半夏、柴胡加竜骨牡蠣湯、半夏厚朴湯など)を試み、不眠障害が改善することを経験します。

その他、不眠症薬として、ベンゾジアゼピン系睡眠薬、非ベンゾジアゼピン系睡眠薬がありますが、長時間作用する薬は日中の認知力に影響する可能性があり、また、短時間に効果を感じる薬は依存を引き起こしやすいと考えられ(とくにベンゾジアゼピン系睡眠薬)、発達時期の小児では、出来るだけ使用を控えたいと考えます。

うつ病、双極性障害、統合失調症様反応あるいは統合失調症が関与していると診断された場合、その治療に準じます。

2. 睡眠関連呼吸障害

扁桃肥大やアデノイド、重症の鼻炎による閉塞性睡眠時無呼吸障害群では、先に上げた、葛根湯加川芎辛夷や荊芥連翹湯処方が効果的です。肥満によるものでは、肥満対策が第一ですが、便通もよくない場合は防風通聖散、関節痛もあるような場合は防已黄耆湯処方が推奨されます。

 

3. 中枢性過眠症候群

やはり規則正しい日常生活が大切なのですが、ナルコレプシーが薬物治療の対象となります。薬物治療としては、昼間の眠気と睡眠発作に対しては、嗜癖を形成しにくいモダニフィル100-300mg(成人)を使用。これが無効の場合、終夜睡眠ポリグラフで診断と重症度を確認した後、登録医により、メチルフェニデート10-60mgの処方が可能とされています*7)

4. 概日リズム睡眠-覚醒障害

1) 不登校に関連する睡眠相後退型

多くの不登校児は小児慢性疲労症候群とも考えられる状態になっており、睡眠障害だけではなく、総合的に状況を検討して対応することが必要ですが、概日リズム睡眠-覚醒障害を修正していくことが心身の状態の改善につながることもあります*3)。薬物としては、不眠障害の項で記したメラトニン、ラメルテオン、オレキシン受容体拮抗薬は試みる価値があります。その場合、朝に眠気が残らないよう服薬の工夫が必要です。正しいリズムがつくまでは、一時的にベンゾジアゼピン系の不眠症薬の服薬を併用しても良いと思います。

また、前述の不眠障害で記した「情緒面や行動面の問題が目立つ場合」と同様な状況がある場合、それと同様の治療を考えます。

2) その他

前述1)同様、1日の生活パターン、環境が重要ですが、薬物としては、*1)に準じます。また、ビタミンB12が有用であったとの報告*8)があり、筆者も改善を見た例を経験しています。

5. 睡眠随伴症

1)NREM睡眠随伴症(錯乱性覚醒、睡眠時遊行症、睡眠時驚愕症など)

薬物治療は必要としない場合が多いですが、頻度、程度が著しい場合は、少量のニトラゼパム(ベンザリン®)やロフラゼプ酸エチル(メイラックス®)を処方。三環系抗うつ剤が有効な場合もあります*9)。

2)REM睡眠随伴症(レム睡眠行動障害など)

クロナゼパム、これの効果がないときは、イミプラミンなどの三環系抗うつ薬が適応とされますが、メラトニン、パロキセチン、ドネべジル、プラミベキソールの有効性も報告されています*9)。

6. 睡眠関連運動障害

1)レストレスレッグズ症候群

鑑別や治療の詳細は他項に譲りますが、原因、誘因となる病態の治療が第一です。それが難しい場合、ブランベキソール(ビシフロール®)、ガバペンチン、エナカルビル(レグナイト®)が使用されます。クロナゼパムが使用されることもあります*10)。 

2)周期性四肢運動障害

1)と共通した病態であり、治療も同様に考えて良いです。

おわりに

以上、睡眠障害について、睡眠障害にどのようなものがあるのかと薬物治療を含めた対応についてまとめました。繰り返しになりますが、特に小児の睡眠障害については非薬物治療が中心となります。また、記載した薬物のほとんどが、小児への安全性が認められていません。使用は、出来るだけ、短期間の使用あるいは頓用にし、慎重な使用が求められます。しかし、睡眠障害への適切な対応は、より良い発達につなげることもあり得ますので、様々な選択肢があってよいと思います。

参考文献

1) American Academy of Sleep Medicine: Internal Classification of Sleep Disorders, Third Edition. American Academy of Sleep Medicine,2014
2) 神山潤: 小児でよく見る睡眠関連病態. 総合診療医のための「子どもの眠り」の基礎知識. 新興医学出版社(東京). 29-48. 2008
3) 三池輝久: 疲労の臨床 小児型慢性疲労症候群と不登校. 医学のあゆみ・226: 710-716. 2009
4) 中山秀
記: 若者のインターネット依存. 心身医学・55: 1343-1352. 2015
5) 伊藤淳一, 西條晴美, 田中肇, 他: 発達障害児の睡眠障害に対するメラトニン治療. 小児科臨床・49: 517-524. 1996
6) 石崎朝世, 洲鎌倫子, 竹内紀子: 発達障害の睡眠障害、情緒・行動障害に対するメラトニンの有用性について. 脳と発達・31: 428-437.1999
7) 睡眠障害の診断・治療ガイドライン研究会, 内山真, 編集. 過眠症. 睡眠障害の対応と治療ガイドライン第2版. じほう(東京). 185-191. 2012
8) 高橋清久: 我が国における睡眠覚醒リズム障害の多施設共同研究(第2報)ビタミンB12および光療法の効果. 精神医学・36: 275-284. 1994
9) 睡眠障害の診断・治療ガイドライン研究会, 内山真, 編集. ねぼけ. 睡眠障害の対応と治療ガイドライン第2版. じほう(東京). 231-242. 2012
10) 睡眠障害の診断・治療ガイドライン研究会, 内山真, 編集. レストレスレッグズ症候群と周期性四肢運動障害. 睡眠障害の対応と治療ガイドライン第2版. じほう(東京). 2223-230. 2012