医療コラム6.ゲーム障害 洲鎌 倫子(医師)
2024.09.14はじめに
ここ十数年でICT(Information and communication Technology)環境は大きく変わりました。インターネットの普及、スマホの登場、COVID-19による社会の変化などがその進歩に大きな影響を与えました。そして同時に弊害も社会問題になっていますが、ICTのない社会に戻ることはないので、うまく付き合っていかないとなりません。
2020年版総務省情報通信白書によると、情報通信機器の保有状況は2019年にはスマホ83.4%とパソコン(PC)69.1%を上回りました。同年のインターネット利用率は89.8%で、端末別ではスマホ63.3とPCの50.4%でした。内閣府の「青少年のインターネット利用環境実態調査では一日の平均費用時間は高校生男子が268分、高校生女子229分、中学生男子186分、中学生女子167分、小学生男子141分、小学生女子117分で、利用するスマホコンテンツは動画(78.6%)、SNS(77.0%)、ゲーム(72.4%)、音楽(67.1%)となっていて、小学生に限るとゲーム(70.9%)と最多でした。
厚生労働科学研究のインターネットの過剰使用調査では、インターネット依存疑い者は2012年52万人から2017年93万人へと増加したと報告されています。オンラインゲームに関する37の横断研究によると有病率は0.7~27.5%と幅がみられました*1)。
ゲーム障害
2013年、DSM-5(アメリカ精神医学会:精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)で、エビデンスが積み重ねられていたゲームのみを「インターネットゲーム障害(IGD:internet gaming disorder)」として診断項目(今後の研究のための病態の項目)に追加されました。ネット関連のほかのアプリ(SNSや動画など)は将来的に正式な疾患になる可能性はあるがエビデンス不足で診断項目には含まれませんでした。 2018年6月に発表されたWHOによる国際分類疾病分類第11版(ICD-11)で「ゲーム障害」が疾患として「嗜癖行動による障害」に診断分類されました。ネット関連のほかのアプリについては「その他の嗜癖行動による障害」に分類することになっています。ゲームを通じて子どもは探索を学び、認知能力を養い、緊張を解き放ち、親との絆や仲間との友好を深める、ゲームの場において人は技能を習熟させ、現実世界で望ましいとされる役割を演じることができる、ゲーム全般が有益な活動と考えられる一方で、この10数年におけるオンラインゲームを中心としたデジタルゲームの隆盛は、ゲームをしすぎる人々という新たな懸念の対象をもたらし、こうしたプレーヤ―にとって、ゲームは有益な活動ではなく有害な活動になっていて「インターネットゲーム障害」、「ゲーム障害」として認知されるに至りました。*2)*3)
ゲームの種類*2)
・ジャンル(シューティング、ロールプレイング、ストラテジー、シュミレーション)
・プラットフォーム(PC、スマホなど)
・モード(1人プレイか他人との対戦※1か)・オンライン持続性(オンライン※2かオフラインか)・目標(暴力や説得、隠密行動の戦術で敵に勝つなど)多人数型オンラインゲーム※1※2
・大規模多人数型オンラインゲーム(MMO:massively multiplayer online game)はIGDに結び付きやすい。中でもMMORPG(ロールプレイング)は終わりのないゲーム構造にデザインされている。
・多人数型バトルアリーナ(MOBA: multiplayer online
battle arena)対戦型ゲーム
併存症との関係*4)
発達障害(自閉スペクトラム症、注意欠如多動性障害)、不安症、強迫症、抑うつ、反抗挑戦症、素行症、不登校、引きこもりなどの疾患との関連がいわれており、併存症への対応が必要です。
治療
専門的な治療が必要な場合は久里浜医療センターなどの専門病院受診を勧めています。認知行動療法、心理教育的プログラム、家族治療、集団カウンセリング等が行われています。生活習慣の著しい乱れ、身体合併症の悪化、家族への暴力などにより在宅が困難な場合は入院治療の対象になります。
予防・対応*2) 4)
年齢によって対応は異りますが、目標はゲームの時間を自律的にコントロールできるようになることです。ネットやゲームの時間を減らすことが目標ではなく、ネットやゲームを使っていない時間を増やすことです。ゲーム以外のリアルな世界での興味・関心を広げていくことです。
親が一方的に作ったネットやゲームについての約束は子どもは守れないものです。子どもと一緒に約束の内容を考えるようにします。やるべきことをやってからゲームという約束は守れる子どもは少なく、宿題もやっつけ仕事になりかねません。子どもの性格にあった対応が必要かと思われます。
予防戦略には①教育に関するリソース②法的整備や規制の施行(日本では総務省、厚生労働省、文部科学省が管轄⓷技術的遺作④世間の意識を高めるメッセージ⑤環境的遺作などがあります。
親の役割
「オフにするだけアプローチ」(ゲーム機器を取り上げるだけかインターネットの接続をオフにするだけ)は問題のあるゲーム使用が軽度でユーザーが若く、以前に奏功した実績がある場合には有効かもしれないが、そうでない場合は対人葛藤を招き、物理的な報復や暴力の発生リスクを伴うことがあります。
2009~2015年に一部の保健機関と専門組織が、家庭環境のゲーム活動について、親がとるべき行動のガイドラインを作成しています。
(1) ゲーム製品の適合性を判断できるように、市販されているゲームの種類と子どものゲームの好みを把握する
(2) 電子メディアの健全な使用をモデル化し過剰使用を助長しないようにする
(3) 問題のあるゲーム使用に対する警告となる徴候ついての知識を得る。そうした徴候の例には、気分の変化(子どもがゲーム中しか楽しそうでない)、ゲーム使用による睡眠不足、他の活動に対する興味の減退、ゲーム使用に対する嘘、ゲームの中止依頼に対する拒否などがある
(4) あらかじめゲームに費やす時間の上限を設定しておき、家族の活動のひとつとしてゲームをするよう努める
(5) 子どもや青年がオンラインで誰とゲームをしているか把握し、サイバー領域の安全性について話し合う中で、見知らぬ他人と個人情報を共有しないことを確認する
(6) ゲーム機器をどのように使用するか決めたうえで、ゲーム機に対してペアレントコントロール(コンテンツ制限や時間制限の設定)をかけ、クレジットカードなどでゲームに課金するオプションをロックする
(7) ゲーム以外の関心対象や活動を支援する。特にスポーツや運動といった、画面を使用しない活動が望ましい。
参考文献
1)松崎尊信、樋口進:「インターネット・ゲーム障害(DSM-5)、ゲーム障害(ICD-11)」児童・青年期の精神疾患治療ハンドブック 精神科治療学 Vol.35.316-320
2)ダニエル・キング、ポール・デルファブロ:ゲーム障害 ゲーム依存の理解と治療・予防、2021年、福村出版
3)厚労省HP 樋口進 ゲーム障害についてhttps://www.mhlw.go.jp
4)吉川徹:ゲーム・ネットの世界から離れられない子どもたち、2021年、合同出版社