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医療コラム2 てんかん 洲鎌 倫子(医師)

2024.09.13

発達障害とてんかん

てんかんは珍しい疾患ではなく、日本では100万人(人口の約1%)の方が罹患しています。発達障害、特に自閉スペクトラム症では高率に合併することが知られています。発達協会王子クリニックは発達障害の方の受診率が高く、特に自閉スペクトラム症に合併するてんかんがほとんどとなっています。

自閉スペクトラム症(ASD)では5~38%、知的障害を伴う場合は、知的障害がない例の3倍に転換の併存が報告されています。注意欠如多動症(ADHD)で12~17%にてんかんを合併、てんかん児の20%でASDを合併、てんかん児の30%でADHDを合併が報告されています。*1)

てんかんとは?

「てんかん診療ガイドライン」によると「大脳の神経細胞は規則正しいリズムでお互いに調和を保ちながら電気的に活動している。この活動が突然崩れて、激しい電気的な乱れ(過剰興奮・過同期)が生じることによって起きるのがてんかんである」とあり、「2014年、国際抗てんかん連盟(ILAE:International League Against Epilepsy)がてんかんを以下のいずれかの状態と定義される脳の疾患であると定義しました。①24時間以上の間隔を空けて2回以上の非誘発性(または誘発性)発作が生じる②1回の非誘発性(または誘発性)発作が生じ、その後10年間にわたる発作再現率が2回の非誘発性発作後の一般的な再発リスク(60%以上)と同程度である③てんかん症候群と診断できる。」2)と記されています。

てんかんの診断

てんかんを治療するにあたり、てんかんの正確で詳細な診断が必要です。そしてそれが薬剤選択や予後の判定にかかわってきます。この診断や治療に必要な分類が、国際抗てんかん連盟:ILAE から出されていますが、2017年に新しい分類(図1)を発表しました(それまでは2010年の分類が使われていました)。

新しい分類では、病因や併存症を含めたてんかんの包括的な診断と治療を行うべきであるとの提言がなされました。てんかんの診断は図1にあるように下記3段階で行います。

① てんかんの発作型(焦点起始発作、全般起始発作、起始不明発作)の診断:
② てんかん病型(焦点てんかん、全般てんかん、全般焦点合併てんかん、病因不明てんかん)の診断
③ てんかん症候群(特徴的な発作症状、脳波所見および画像所見などが一定のまとまりを示す集合体で、発症年齢や予後など年齢依存性の特徴をもっている。知的障害や精神障害などの明確な併存症を伴うこともある)の診断。

既知のてんかん症候群に当てはまらない場合は①②のみになります。

そしてさらに病因と併存症を加えた多軸診断を行います。

病因は構造的、素因性(遺伝性)、感染性、代謝性、免疫性、病因不明に分類されます。併存症は学習や精神・心理・行動の問題、脳性麻痺や歩行障害、運動異常症などの運動障害など多岐にわたります。

ちなみに①の発作型の分類をさらに細分化したものが、図2になります。

図2 ILAEてんかん発作型分類 拡張型 *4)*5)

焦点起始発作、全般起始発作、起始不明発作の3分類のうち焦点起始発作は意識状態を表す用語として焦点意識保持発作と焦点意識減損発作に分類されます。

そして焦点起始発作も全般起始発作も運動症状の有無で運動性か非運動性に分類されます。

なお、ここでいう焦点とは脳の一部の焦点、全般というのは脳の全般という意味で、焦点起始発作というと脳の一部の焦点から激しい電気的な乱れが起こって始まる発作で、全般起始発作というと発作の初めから脳の全般に激しい電気的な乱れが起こっている発作です。焦点起始発作でも二次性に脳の全般に激しい電気的な乱れが広がり、発作が大きくなっていくことがあります。

てんかんとの鑑別が必要な状態や病気

てんかんとの鑑別が必要なものとして、小児では、乳児の熱性けいれんや憤怒けいれん、軽症胃腸炎関連けいれん(ロタウィルス感染で好発)、睡眠時ミオクローヌス、夜驚症、心因性非てんかん性発作があります。成人では、神経調節性失神(いわゆる失神)のほか、やはり心因性非てんかん性発作が多く,心血管性のてんかんにも注意を要します。過呼吸やパニック発作もあります。

この中で、心因性非てんかん性発作は、頻度が高く、常に念頭に入れる必要があります。いわゆる偽発作といわれるもので詐病と同等に扱われることもありますが、自らも認識されていないかもしれない内因性の葛藤が表出した発作であり、十分な理解とともに精神科的なアプローチが必要になります。伊藤らの調査*6)では、てんかんをもつものや知的障害があるものに多いとされ、私たちが診ることも少なくありません。その鑑別のためにも、よく話を聞き、次の検査も行います。

てんかんの検査

1.脳波検査


脳波検査は、主にてんかんの確定診断、病型診断、治療効果の判定と予後の判定のために行われます。1回の検査だけでは診断ができない場合もあります。検査の頻度は明確なエビデンスはありませんが、当院では半年~1年の頻度で行っています。
てんかんあるいはてんかんが疑われる患者さんの動きのビデオ記録と脳波記録を長時間同時にモニターする「長時間ビデオ脳波モニタリング」は、薬剤抵抗性てんかん、外科治療時の局在診断、てんかんの確定診断、病型診断に有用です。

図3 脳波検査記録

脳波検査は①覚醒時と②睡眠時の記録をします。③てんかん波(棘波、解棘徐波結語)を認めます。

2.画像診断

焦点てんかんが疑われる場合はMRI検査が有用であり、海馬硬化や皮形成異常などのてんかん原生病変の検出に有用です。素因性てんかんでは器質的異常の頻度が低いです。緊急時や石灰が疑われる場合はCT検査が有用です。

てんかんの治療

1.薬物療法

初回の非誘発性発作では原則として抗てんかん薬の治療は開始しませんが、初回発作でも神経学的異常、脳波異常、脳画像病変がある場合、てんかんの家族歴がある場合、高齢者、患者の希望がある場合などでは初回からの使用を考慮します。2回目の発作が出現した場合は、1年以内の発作出現率が高いため、抗てんかん薬の開始が検討されます。

発作型で、第一選択、第二選択の薬剤が推奨されています。また、型によっては投与を慎重にすべき薬剤もあり、これらを表5に示します。さらに薬剤によって有効で副作用が少ないと思われる参考域の血中濃度があり、薬剤の調整や副作用チェックのために抗てんかん薬の血中濃度を定期的に測定します(表6)。ただし、有効性や副作用を示す濃度は人によりかなり違うので、個々の観察が必要です。

表1 抗てんかん薬 発作型による選択 *2)

表2 抗てんかん薬の血中濃度 *2)

2.外科治療

薬剤治療抵抗性てんかん(適切に選択された2種類以上の抗てんかん薬で単剤あるいは併用療法が行われても、発作が継続した一定期間抑制されないもの)は外科治療を検討します。

3.迷走神経刺激療法

薬剤治療抵抗性てんかんには、迷走神経刺激療法(VNS: vagus nerve stimulation)も行われます。

王子クリニックの治療の実際

初回発作の場合は脳波検査、血液検査、他施設でMRIまたはCTを施行します。抗てんかん薬の治療を開始する場合は発作型や脳波所見により薬剤の選択を行います。それ以降は、6か月~1年に1回 脳波検査、血液検査(抗てんかん薬血中濃度、肝機能、腎機能など一般検査)を行っています。

また、規則正しい生活、特に睡眠不足や体調管理、ストレスの軽減を心がけるよう生活指導を行います。

王子クリニックの特徴として、自閉スペクトラム症、知的障害などの発達障害の方の受診が多いため、必然的に発達障害に併発したてんかんがほとんどです。向精神薬、抗うつ薬、抗アレルギー薬の中にてんかん発作を誘発することがあるといわれますが、実際の診療の中で明らかな因果関係があったものはありません。向精神薬をやめることができない場合は、抗てんかん薬と併用します。

向精神薬および向精神薬以外の抗てんかん薬に対する影響、逆に抗てんかん薬の向精神薬に対する影響も考慮しなければなりません。感情調整作用のあるバルプロ酸とカルバマゼピンはてんかんと向精神薬として使用しています。てんかんが緩解してバルプロ酸やカルバマゼピンを減量すると攻撃性が増すことはよく経験するところです。

参考文献
1)日本てんかん学会編集「てんかん学用語事典 改訂第2版」2017年10月
2)日本神経学会監修 てんかん診療ガイドライン作成委員会編集「てんかん診療ガイドライン2018」
3)中川栄二,日暮憲道,加藤昌明(日本語訳監修).ILAEてんかん分類:ILAE分類・用語委員会の公式声明.
ILAE classification of the epilepsies: Position paper of the ILAE Commission for Classification and Terminology. てんかん研究.2019; 37(1): 6-14
4)中川栄二,日暮憲道,加藤昌明(日本語訳監修).国際抗てんかん連盟によるてんかん発作型の操作的分類:ILAE分類・用語委員会の公式声明. Operational classification of seizure types by the International League Against Epilepsy: Position Paper of the ILAE Commission for Classification and Terminology. てんかん研究.2019; 37(1): 15-23
5) 中川栄二,日暮憲道,加藤昌明(日本語訳監修).ILAE2017年てんかん発作型の操作的分類の使用指針. Instruction manual for the ILAE 2017 operational classification of seizure types. てんかん研究.2019; 37(1): 24-36
6)伊藤ますみ、ら;成人てんかん治療におけるpseudoseizureの特徴と診断。厚生労働省精神・神経疾患研究委託費(13指-1)、てんかんの診断・治療ガイドライン作成とその実証的研究、平成15年度研究報告書、pp61-66.2004