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医療コラム1. 発達障害の概念と特徴および経過  石﨑朝世(医師)

2024.10.03

発達障害(神経発達症)とは

よく使われるアメリカ精神医学会の診断分類DSM-5¹⁾よる神経発達症は、「発達期に発症する一群の疾患で、典型的には発達期早期、しばしば小中学校入学前に明らかとなり、個人的、社会的、学業、または職業における機能の障害を引き起こす発達の欠陥により特徴づけられる」とされます。その主なものは、自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害(ASD)、注意欠如多動症/注意欠如多動性障害(ADHD)、学習障害(DSM-5では限局性学習症/限局性学習障害)、知的障害(DSM-5では知的発達症/知的発達障害)です。そのほか、言語症/言語障害、語音症/語音障害、吃音、社会的コミュニケーション症/社会的コミュニケーション障害(明らかなこだわりがない軽い自閉スペクトラム症と言ってよい)、発達性協調運動症/発達性協調運動障害、常同運動症/常同運動障害、チック症/チック障害があります。

日本では知的障害福祉法があり、知的障害のある方への法律は既にあったため、2005年に施行された発達障害者支援法による発達障害では、知的障害は含まれません。ただ、発達に問題のある方とかかわるときには知的能力への配慮が欠かせないため、この稿では発達障害と神経発達症を同義語として使います。

神経発達症のある方は、複数の神経発達症の特性があることが少なくないため、主な神経発達症の関係(DSM-5による)を図に示しました(図1)。
【図1】主な発達障害(神経発達症)の関係~DSM-5による~


また、その特性が明らかな障害とはいえず、いわゆる性格の範囲の程度のこともあります。同じ人でも、環境によっては障害と考えるほどの症状になりますが、それほどにならない場合もあります。また、その時代、その地域によっても、障害とされるか、されないかが変わってきます。また、診断が偏見につながらないように配慮されたこともあり、DSM-5の日本語訳では、「症」と「障害」が併記されました。

また、環境にもよりますが、成長すると特性が薄くなったり、場合によっては特性が際立ってきたりすることもあります。子どもをみるときは、そのように柔軟に考えていただきたいと思います。特に幼児期は、これから変化する時期でもあり、はっきりと診断できないことが多いのです。しかし、かかわる日常の中では、その特性をしっかりとらえ、適切にかかわることが必要です。

以下、クリニックを利用される多くの方が、その特性を有する主な神経発達症について、注目すべき併存症、二次障害、薬物治療、経過を考える上で大切なこと、社会に望みたいことを含め、少しページを割いて説明します。

特に自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如多動症(ADHD)については、理解あるかかわり方や環境の工夫に参考となる基本的病態も記載します。

1.自閉スペクトラム症(ASD)

DSM-5による診断基準(表1)は、「コミュニケーションの問題・対人関係の問題」と、「興味の限局、こだわり、常同行動」があること。「感覚の過敏、鈍、並外れた興味」は必須項目ではないものの、多くのASDでは理解が必要です。これもさまざまで、一般には音に過敏(多くは赤ちゃんの泣き声は苦手)です。また光に過敏な方も少なくなく、においや触覚の過敏などもあります。反対に痛みや吐き気、満腹感、のどの渇きなど身体の内部感覚には鈍感な方が少なくありません。「想像力(見通しをつける力)の障害」は、DSM-5に明記されていませんが特記すべき特性で、本人のつらさや不安、周囲の環境やかかわり方を考えるとき、十分な理解が必要です。

基本的な病態としては、心の理論(人は自分と違った考えを持っていることを推測する能力)の問題、実行機能(課題の遂行に際し、課題ルールの維持や必要に応じた変更、情報の更新などを行うことで思考や行動を制御する能力)の問題、中枢統合機能(模様などを全体的なものとして捉える能力)の問題、情動認知の問題などが想定されています²⁾。中でも心の理論の問題が中心的で、コミュニケーションや対人関係の問題を起こします。また、刺激への過敏とも関連がある選択的注意(雑多な刺激の中から必要な刺激を選別して認識する能力)の問題、時間感覚の違いがあり、これは時間の経過や因果関係がわかりにくくなること、先の見通しをつけることや状況に合わせて急いだりすることが出来にくいことに繋がります。一方で、特異的な記憶想起現象(タイムスリップ現象:突然過去の記憶を想い起して、その出来事をあたかもつい先ほどのことのように扱うこと≒フラッシュバック)があり、十分な理解が必要です³⁾。ただ、ASDとされる方でも、特性の程度、言語能力が低い方高い方、人に関心が少ない方多い方、どんな感覚に過敏かも様々です。そして、何かに高い能力を持っている方も少なくありません。

個々の特徴を理解し、特に本人が見通しを持てやすい分かりやすい環境、自尊心も配慮しながらも具体的な指示、刺激の過敏への配慮が必要です。

【表1】DSM-5 における自閉スペクトラム症( ASD )の診断基準
1. 社会でのコミュニケーションや対人交流の持続的な障害
A. 社会での情緒的な相互交流の障害
B. 社会的交流における非言語コミュニケーション行動の障害
C. 人間関係を築いて保ち理解することの障害
2. 限られた反復されるパターンの行動や興味、活動(以下の項目のうち少なくとも2つに当てはまる)
A. 型にはまった体の動き、物の使用や発話
B. 同一性へのこだわり、決まった手順への融通の利かない固執、儀式化された言語もしくは非言語行動パターン
C. 集中の深さや狭さが一般的でないほど非常に限られている大変強い興味・関心
D. 感覚入力に対しての反応性の過度の上昇もしくは低下、もしくは周囲の環境の感覚的側面に対しての並外れた興味
3. 症状は早期の発達段階までに発現していなければならない(が、社会的な要求が限られた能力を超えるまで全てが現れないかもしれない。
もしくは後天的に学んだ対処法で見えなくなっているかもしれない。)
4. 症状によって社会や職業またはその他の重要な分野で臨床的に重大な機能障害が起こっている

ASDの経過の概要を図2に示します。根本的に症状は大きくは変わりませんが、環境や経験で、社会参加の形や精神状況は変わってきます。

【図2】ASDの症状の強さと問題点の大きさのおおよその経過

2.注意欠如多動症(ADHD)

DSM-5によれば、「複数の状況下における著しい不注意、多動衝動性で、能力の発揮や発達の妨げになっている状態」です。症状は12歳以下から現れているとされます。複数の状況下で症状があるというところが重要です。症状の強さ、凸凹もさまざまです。診断基準を後に示します。

基本的病態は、現在のところ、1)実行機能の問題、2)報酬系の問題、3)時間処理の問題といった三つの経路の問題と4)安静時に活性化するデフォルトモードネットワークの切り替えの機能の悪さが想定されています⁴⁾。1) 実行機能の問題のために、必要な情報を思い浮かべて課題を遂行する、あるいは問題を分析して行動を切り替えたり解決方法を再構築したりする、また気分や覚醒レベルをコントロールする能力の低下があります。2) 報酬系は、意欲、動機、学習に重要な問題を持ち、欲求を満たしたときに「快」「満足感」の感情を生み出す脳部位で、このような報酬獲得のために行動調整を行う回路です。この機能の低下では、少し先の報酬(遅延報酬)を考えての行動調節ができず、実行機能の問題とも関連して、待つことができない、我慢ができない、といったことが起こります。3) 時間処理の問題は、時間を考えて行動できず、実行機能の問題とも関連して、見通しを持って行動できにくいことや段取りの悪さと関係します。4) デフォルトモードネットワークの切り替えの機能の悪さで、作業や学習を行っていても、それとは関係が少ない、様々なことを思い浮かべてしまいます。以上の病態が考えられていて、主に作用している脳部位が想定されている機能もありますが、それぞれが別々に存在するのではなく、脳の中でネットワークがあり、それぞれが関連しあって症状に繋がっていると考えられています。

ADHDのある方は、その特性から、わがままで不真面目ととらえられがちで怒られることが多く、自己肯定感が低くなりがちといわれます。達成感や自信を持つことができるようなかかわりが必要です。

ADHDの経過の概要を図3に示しますが、ASDに比べ、症状は時期により変化します。ただ、症状が強い方でも、理解ある環境で、生き生きと活躍できている方もいれば、症状が目立たなくなっても、さまざまな二次障害が出現してくる方もいます。

図3 ADHDの経過の概要



【表2】DSM-5における注意欠如・多動症(ADHD:Attention Deficit Hyperactivity Disorder)の診断基準

A1:以下の不注意症状が6つ(17歳以上では5つ)以上あり、6ヶ月以上にわたって持続している。

a.細やかな注意ができず、ケアレスミスをしやすい。
b.注意を持続することが困難。
c.上の空や注意散漫で、話をきちんと聞けないように見える。
d.指示に従えず、宿題などの課題が果たせない。
e.課題や活動を整理することができない。
f.精神的努力の持続が必要な課題を嫌う。
g.課題や活動に必要なものを忘れがちである。
h.外部からの刺激で注意散漫となりやすい。
i.日々の活動を忘れがちである。

A2:以下の多動性/衝動性の症状が6つ(17歳以上では5つ)以上あり、6ヶ月以上にわたって持続している。

a.着席中に、手足をもじもじしたり、そわそわした動きをする。
b.着席が期待されている場面で離席する。
c.不適切な状況で走り回ったりよじ登ったりする。
d.静かに遊んだり余暇を過ごすことができない。
e.衝動に駆られて突き動かされるような感じがして、じっとしていることができない。
f.しゃべりすぎる。
g.質問が終わる前にうっかり答え始める。
h.順番待ちが苦手である。
i.他の人の邪魔をしたり、割り込んだりする。

B:不注意、多動性/衝動性の症状のいくつかは12歳までに存在していた。
C:不注意、多動性/衝動性の症状のいくつかは2つ以上の環境(家庭・学校・職場・社交場面など)で存在している。
D:症状が社会・学業・職業機能を損ねている明らかな証拠がある。
E:統合失調症や他の精神障害の経過で生じたのではなく、それらで説明することもできない。

3.知的障害(=知的能力障害(知的発達症/知的発達障害))

DSM-5 の日本語訳は知的能力障害です。それによれば、「発達期に発症し、概念的、社会的、および実用的な領域における知的能力と適応機能両面の欠陥を含む障害」とされ、「継続的な支援がなければ、家庭、学校、職場、及び地域社会といった多岐にわたる環境において、コミュニケーション、社会参加、及び自立した生活といった複数の日常生活で適応ができない」とされています。

今までは標準化された知能検査によっておおよそ規定されていましたが、DSM-5では、知能検査は参考にはなるが、知能検査で示されたIQだけで診断できるものではないとされました。知的障害の症状は変化しないものであるはずですが、幼児期では、その程度はわからないことも多いです。さまざまな経験を積める環境であったか否かでも、その程度は多少変化し、知的能力が伸びる時期は子どもによってかなり違います。しかし、各時期で他児と知的能力に差がある場合、理解ある対応が必要です。

4.学習障害(≒限局性学習症/限局性学習障害)

DSM-5では、限局性学習症として、「効率的かつ正確に情報を理解し処理する能力に特異的な欠陥を認める場合に診断される」とし、正規の学校教育の期間において初めて明らかになり、「読字や書字あるいは算数の基礎的な学習技能を身につけることの困難さが持続的で支障を来すほどであることが特徴」とされ、「職業活動を含むその技能に依存する活動を生涯にわたって障害する」とされています。

診断基準を後に示しますが、大まかに読字障害、書字表出障害、算数障害があります。全般的な知的障害はないため、学習ができないことや職業活動に支障が出ることも本人の努力不足と思われたり本人もそう思ったりして、非難されたり自信を失ってしまったりすることが少なくありません。まずは、この障害を疑うことから始め、専門家による診断、合理的配慮、社会的、精神的支援が必要です。

【表3】DSM-5における限局性学習症(Specific Learning Disorder(SLD) )の診断基準
A. 学習や学業的技能の使用に困難があり、その困難を対象とした介入が提供されているにもかかわらず、以下の症状の少なくとも1つが存在し、少なくとも6ヶ月間持続していることで明らかになる。
1. 不的確または速度が遅く、努力を要する読字(例:単語を間違ってまたゆっくりとためらいがちに音読する、しばしば言葉を当てずっぽうに言う、言葉を発音することの困難さをもつ)
2. 読んでいるものの意味を理解することの困難さ(例:文章を正確に読む場合があるが、読んでいるもののつながり、関係、意味するもの、またはより深い意味を理解していないかもしれない)
3. 綴字の困難さ(例:母音や子因を付け加えたり、入れ忘れたり、置き換えたりするかもしれない)
4. 書字表出の困難さ(例:文章の中で複数の文法または句読点の間違いをする、段落のまとめ方が下手、思考の書字表出に明確さがない)
5. 数字の概念、数値、または計算を習得することの困難さ(例:数字、その大小、および関係の理解に乏しい、1桁の足し算を行うのに同級生がやるように数字的事実を思い浮かべるのではなく指を折って数える、算術計算の途中で迷ってしまい方法を変更するかもしれない)
6. 数学的推論の困難さ(例:定量的問題を解くために、数学的概念、数学的事実、または数学的方法を適用することが非常に困難である)

B. 欠陥のある学業的技能は、その人の暦年齢に期待されるよりも、著明にかつ定量的に低く、学業または職業遂行能力、または日常生活活動に意味のある障害を引き起こしており、個別施行の標準化された到達尺度および総合的な臨床消化で確認されている。17歳以上の人においては、確認された学習困難の経歴は標準化された評価の代わりにしてよいかもしれない。

C. 学習困難は学齢期に始まるが、欠陥のある学業的技能に対する要求が、その人の限られた能力を超えるまでは完全には明らかにはならないかもしれない(例:時間制限のある試験、厳しい締め切り期間内に長く複雑な報告書を読んだり書いたりすること、過度に思い学業的負荷)。

D. 学習困難は知的能力障害群、非矯正視力または聴力、他の精神または精神疾患、心理社会的逆境、学業的指導に用いる言語の習熟度不足、または不適切な教育的指導によってはうまく説明されない。

 なお、日本の文部科学省による学習障害(Learning Disability(LD))の定義は、「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する」「推論する」といった学習に必要な基礎的な能力のうち、一つないし複数の特定の能力についてなかなか習得できなかったり、うまく発揮することができなかったりすることによって、学習上、様々な困難に直面している状態となっており、DSM-5による定義より、やや広い概念になっています。

5.ほかに・・

発達性協調運動症/発達性協調運動障害についても簡単にお伝えしたいと思います。DSM-5では、「協調運動技能の獲得や遂行が、その人の生活年齢や技能の学習及び使用の機会に応じて期待されるものより明らかに劣っている状態」と定義されています。しばしば他の発達障害に併存し、幼児期から、不器用で、物をつかんだり鋏を使ったりが難しく、物がうまく作れない、体操やお遊戯ができないといった状況で、当人にも子どもながらにそのことを実感し、また友達からも指摘されて、早くから自己評価が低くなる原因となります。これは、将来の自信のなさにもつながりやすく、周囲の理解と本人なりの努力への評価が必要です。

なお、神経発達症には分類されませんが、反抗挑戦症も理解されるべき特性です。この特性も他の発達障害に併存することがまれではありませんが、DSM-5によれば、「怒りっぽく易怒的な気分、口論好き/挑発的な行動、または執念深さなどの情緒・行動の様式が同胞以外の一人以上のやり取りにおいて、少なくも6か月持続している状態」とされます。これがあることによって、友達を作りたくてもできず、周囲からは呆れられ、ますますいらだつことになります。どこかで適切な態度ではないとわかっていてもそうなってしまいます。周りはあおられず、冷静に時を待つことも必要です。症状は、発達により軽減することが多いですが、周りから反発され続け孤立すると、二次的に症状が強くなることもあります。ただ、うまくすれば、このような反抗の気持ちは世の中を変える原動力になる可能性もあると筆者は考えます。

以上の障害は併存することも少なくありません。

参考文献

1) 日本精神神経学会(監修). 高橋三郎. 大野裕.(監訳). DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル. 東京:医学書院;2014. pp.31-85.
2) 橋本俊顕.自閉症有馬正高,監修.加我牧子,稲垣真澄編集.小児神経学.東京:診断と治療社.2008;440-447
3) 杉山登志郎.自閉症の精神病理.発達障害の豊かな世界.東京:評論社.2000;15-57
4) 林 隆. Triple pathway modelとFunctional connectivity, Dynamic connectivityからみたADHDの病態と支援 の視点に基づく薬物療法 児童青年精神医学とその近接領域 61(3);278-288 2020